ビクセン | 天体望遠鏡、双眼鏡を取り扱う総合光学機器メーカー
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2023.02.21
■中西 アキオ(プロ天体写真家)
光学と印刷の町、東京都板橋区に生まれ育った日本で数少ないプロの天体写真家として活躍中。 一般的な星空や都市星景の撮影はもちろん、星雲・星団撮影や新天体の捜索まで何でもこなせるのが大きな強みで、撮影技術を生かして20~21等台の微光小惑星を4つ発見している。その分天文機材に対しては厳しい目を持っている。
フローライトや特殊低分散レンズを用いた2枚玉の屈折鏡筒は、極端に明るくするなど設計に無理をしなければ、シンプルな構造で性能を出しやすく良く見え、それほど高価にならず写真性能も良いというように、とても使い勝手が良くて初心者からベテランまで万人にお勧めの天体望遠鏡になります。
その中でも、特に私がお勧めしたいのがSDレンズ(FPL53という、特殊低分散レンズの中でもフローライトに近い特性を持った、色消し特性の良いレンズ)を用いたSDシリーズです。
SDシリーズには口径が81mmのSD81S、口径が103mmのSD103S、口径が115mmのSD115Sの3モデルで構成されており、別売オプションで像面を平坦化し良像範囲を広げるSDフラットナーHDキットや、さらに焦点距離を短縮して像を明るくすることができるレデューサーHDと組み合わせると、星雲・星団の撮影でも画面の周辺まで満足のいく星像を結ぶようになります。数ある天体写真のジャンルの中でも、星雲・星団撮影は眼視ではほとんど見えないような天体を、カメラの力を借りて美しく映し出すことができるため、天体写真の醍醐味と言えるものだと思っています。
しかし、そんな星雲・星団写真の撮影をこのSDシリーズでおこなうと、ある困ったことがありました。それは「ある程度の明るさの星に、3本の黒い筋が放射状に写り、そのわきが明るいために目立つ」といったものです。
この原因は2枚のレンズの間隔を保つために間に入れた、3枚の錫箔と呼ばれる非常に薄い金属箔が光路に飛び出しているために起きるのです。
SD103SとSD103SⅡの対物レンズ
接眼レンズから見た対物レンズ
SD103Sでは3枚の錫箔が光路に飛び出していることが良く分かります。
一方SD103SⅡではリング状となった結果、光路に飛び出すものが無くなり、星像がきれいな円形を保ちます。
錫箔によるレンズ間隔の保持は何もSDシリーズだけではなく、多くのメーカー、機種で行われており、決して悪いものではありませんが、星雲・星団写真撮影に関しては少々嬉しくないものでした。この現象は実はユーザーの使い方で簡単に解消できるもので、口径を少し絞って錫箔が隠れれば良いのです。しかし、せっかくの口径を絞るのはもったいないものです。根本的な解決には3枚の錫箔によるレンズ間隔の保持を別の方法にすることだったのですが、SDシリーズの中ではまずSD81Sが改良されSD81SⅡとなりました。
これは錫箔の代わりにごく細いリング状のものでレンズ間を保持し、光束がきれいな円形を保つようにしています。その効果ははっきりと表れ、口径を絞ったのと同じような星像を、何もせずに得ることができるようになったのです。 そうなるとSD81SⅡと同じ改良がいつ上位のSD103SとSD115Sに採用されるのかと心待ちにしていたのですが、今回ついにSD103SⅡ、SD115SⅡとして新登場となったのです。
スペーサーリングの小話byビクセン商品企画担当
ステンレス材の薄膜にエッチングと呼ばれる加工法を施すことで、厚さ0.25mmのスペーサーを実現しています。SD81SIIへの改良の際からSD103S/SD115Sも同様にスペーサーリングの採用を検討していました。SD103SII/SD115SIIではより幅広なスペーサーリングが必要となり、製作は難航しましたが、試行錯誤の上、この度商品化にたどり着きました。
改良の効果はてきめんで、SD81SⅡ同様に星像はすっきりとした円形となりました。画面の周辺では別のケラレの問題も少々見受けられますが、画面の中心付近はとても良好な星像となっています。これで星雲・星団写真の撮影を主目的にする方でも、安心してSDシリーズを選ぶことができることでしょう。
M8・干潟星雲とM20・三裂星雲(SD115SII/SDレデューサーHDキット/EOS Ra)
M16・わし星雲とM17・オメガ星雲(SD103SII/SDレデューサーHDキット/EOS Ra)
一例として、M45・すばるを撮り比べてみますと、その効果が良く分かります。SD103Sでは星から3本の黒い筋が生えているように写りましたが、SD103SⅡではきれいな星像となっています。
M45・すばる(SD115SII/SDフラットナーHD/EOS R3)
ところで、SDシリーズのような高性能の鏡筒で星雲・星団写真の撮影を行なう際、赤道儀もぜひとも高性能モデルを使用したいものです。剛性が高くて追尾精度の高い機種ほど歩留まり良く撮影がおこなえて良いのですが、具体的にはSXP2、AXJ(オプションのエンコーダ内臓ならなお可)、AXD2などの機種がお勧めです。追尾撮影の成功率が高いのはもちろん、ピント合わせ一つとってもぶれにくくて効率よく作業できるのです。 新しいSDシリーズ鏡筒で、各種の天体観察はもちろん星雲・星団撮影を大いに楽しんでほしいです。
<SDシリーズお勧めオプション>
『SDレデューサーHDキット』&『直焦ワイドアダプターDX』 ぜひとも用意したいオプション品として、まずはSDフラットナーHDキットとレデューサーHDを挙げたいと思います。シンプルな2枚玉の対物レンズは、画面の中心を外れると像面湾曲の影響を受けてどうしても星が大きくそして流れて写ってしまいます。それを補正するのがフラットナーであり、さらに焦点距離を短縮して像を明るくするのがレデューサーという訳です。
『デュアルスピードフォーカサー』 星雲・星団撮影に限らず、天体写真撮影で難しいものの一つがピント合わせです。ピント合わせをおこなう際に、ノブの操作に非常に微妙な操作を求められるのですが、それを軽減してくれるのがデュアルスピードフォーカサーです。ノブの動きを大きく減速してくれるために、快適にピント合わせができるようになり、星雲・星団撮影はもちろん月や惑星の撮影にも効果絶大です。
『AXJ赤道儀』 せっかくのSDシリーズの高性能を活かすために、できることなら赤道儀も高性能なモデルを組み合わせたいものです。剛性が高いと少し風が吹いたり、望遠鏡に触ってもぶれにくくなりますし、追尾精度が高ければ星雲・星団撮影の際に歩留まり良く撮影できるようになります。良い機材を使うことによって、きっと天体写真撮影が楽しくなることでしょう。
M31・アンドロメダ銀河(SD115SII/SDフラットナーHD/EOS R3)
M42・オリオン座の大星雲(SD115SII/SDフラットナーHD/EOS Ra)
2022年11月8日 皆既月食(SD115SII/EOS R5)