ビクセン | 天体望遠鏡、双眼鏡を取り扱う総合光学機器メーカー
特設ページ
2019.02.05
これまで単眼鏡を使った刀剣鑑賞の様々なポイントを特集してきました。
今回は「美の根源」を追いかける刀匠視点から、刀剣の持つ新しい魅力に迫ります。
むだのない洗練された「姿」、深く青々とした「地鉄」、星のように煌く「刃文」と鍛え込まれた美しさ。
その美しさに魅了された人たちから、注文依頼が殺到する刀匠がいます。
刀匠 藤安将平さん。
刀匠 藤安将平
昭和21年福島県伊達郡生まれ。故人間国宝、宮入昭平氏の高弟であり、現代刀匠による古刀再現の糸口を見出した名工。
「鶴丸国永の写し」を作刀した、現在の日本において最高の技術を持った刀匠と言われている、すごい人です!
今回は福島県にある藤安さんの工房にお伺いしました。
工房内には、刀の製作に使用する無数の工具が並んでいます。
ビクセンはじめまして!今日は宜しくお願いします。
藤安さん宜しくお願いします。
今回作刀における工程の中から、丈夫な強い刀を生み出すために大切な「鍛錬」、刀に命を吹き込む「土置き・焼き入れ」、「荒砥ぎ」の作業を見学させて頂きました。
玉鋼は砂鉄を原料に、日本古来の製鋼法によって造られた良質の鋼材。最上質の鋼として日本刀の製作には欠かせない材料です。
この玉鋼の、炭素含有量を調整、不純物を除去し、刀の元になる地鉄(じがね)を作るのが「鍛錬」です。縦、横に切れ目を入れ 何度も折り返すことで、幾層にもなった強い地鉄ができます。
何度も折り返すためには鋼を高温で熱する必要があります。火床(ほど)の準備を進めます。
高温になった火床(ほど)に鋼を入れ、熱しています。
泥汁や藁灰をかけます。
藁灰は素材を沸かすときに温度が高くなりすぎて燃えるのも防ぎます。
鞴(ふいご)を使って火床に空気を送り込むと炭がバチバチと焼ける音がして火の粉が舞います。 内部までしっかりと温度を上げます。
炎の色と火の中にパチパチ線香花火のように出る火花をみながら、鋼が沸くタイミングを見ています。
キラキラと火花が出てくるとわくわくしてくると、藤安さん。
真っ赤に熱せられた鋼を取り出します。 高温で熱された鋼が輝いています…!ここから折り返し鍛錬がはじまります。 藤安さんが鋼の向きを変えて鋼をまとめます。
修行10年の女性のお弟子さんが小槌で鉄を打つと火花が飛び散ります。
室内には小槌のリズミカルな音が響きます。
火床で熱して切れ目を入れた真っ赤な鋼は、柔らかそうに曲がります。折り返して重ねた鋼は大槌で叩かれ、またひとつになります。
3セットこの鍛錬を繰り返すと、いわゆる皮鉄(軟らかい心鉄をくるむ、硬い鉄)がつくられます。
焼き入れは、刃の部分に焼きを入れて、この部分だけ最も硬度の高いものとし、薄く砥いだとき、よく切れるようにします。
木炭の細粉、泥、砥石の細粉を混ぜて焼刃土を作ります。
これを刃文の種類に従って、土置きをしていきます。
真剣なまなざしで刀に焼き刃土を丁寧に乗せていきます。
完成した刀が見えているように迷いがありません。
焼きの入る部分は薄く、他は厚く塗ります。
これを一度、火床で乾かします。
焼き刃土の薄い部分から、色が変わっていくのが分かります。
切先が一番初めに白くくなり、刃の部分が次に白くなっていきます。
すべての明かりを消し、いよいよ焼き入れが始まります。
火床に刀身を入れ熱します。
刀匠はまんべんなく、刀身を前へ押し出したり、引いたり平均的に熱されるように動かし続けます。
鞴(ふいご)を使って火床に空気を送り込みながら引き出すと、赤く輝く刀身がみえます。
まるで刀に命を吹き込んでいるかのようです…!
頃合いを見て取り出し、急冷します。
桶と冷やした刀剣からも湯気が立ち上ります。
焼く前に刀身にのせた土が、まだしっかりと刀身にまとわりついています。丁寧に洗い落として、焼きなまします。
焼きなましが終わると、砥石で荒砥ぎに入ります。
荒砥ぎをすることで、刀らしい刃紋が見えてきました。
荒砥ぎのあと何度も焼き戻しをして、鋼をもっと強いものにしていきます。
その後、この刀を砥師ぎに託し、美しい刀が出来上がります。
ビクセン藤安さんはなぜ刀鍛冶になったのですか?
藤安さん小さいころからチャンバラが好きで、刀が好きでした。シンプルに刀への好奇心からです。 高校3年生の時に、師匠(故人間国宝、宮入昭平氏)の書いた「刀匠一代」という本に出合い感動しました。高校を出て、刀匠の仕事を近くでみたくて、師匠のもとへ弟子入りしました。
ビクセンなぜ鶴丸国永の写しを作刀したのでしょうか。
藤安さんたまたま30年前くらいに明治天皇に奉納された鶴丸国永を仙台の展覧会で見たんです。すごい刀だと思って、どうやったらあんな刀ができるんだ?と頭の中でずっと考えていました。
鶴丸国永のような刃ができるようになってきたから、そろそろと考えていた矢先、京都の藤森神社の郡司さんから写しを作ってほしいと言われたんです。
偶然のタイミングが重なり、これはやるしかないなと。
ビクセン昨今の刀剣ブームをどう感じていますか?
藤安さん刀に興味を持つ女性が増えてきてビックリしています。刀をお迎えするという考え方は、いままでの刀剣界にはありませんでした。女性は刀に対する想いがとても純粋ですね。またゲームから本物(刀)の魅力を楽しむ体験へ向かったことで、私はちょっとしたブームでは終わらないと考えています。
藤安さん最近、子供が生まれるときに、子供への想いを刀にしたいという方が増えてきているんです。
昔はそれが当たり前でした。今は先祖代々受け継がれた刀を処分したいと持ってきます。
親から代々受け継がれた思いを処分するのはとても悲しかったです。昔と同じ思いで刀に向き合う人が増えてきたことはとても嬉しいです。
藤安さん刀の鑑賞会に行っても知識がないから、うんちくだらけの愛好家に馬鹿にされてしまう、と悩む女性が講演会に多いけれど、刀に対する向き合い方はそれで良いんですよ。知識なんて必要ない。あなた方の想いが本来の刀への想いだと話すと感激してくれる。
ビクセン最後に、藤安さんにとって刀作りとは?
藤安さん
もともと刀は大量生産されていた消耗品です。何ヵ月もかけて自分の作品を作るものではないんです。
同じ仕事で作られた刀の中から、これは使うのがもったいないというものが名刀として残っています。
作為がない中から名刀が生まれている、マネしようがない偶然の産物です。
もちろん作り方の資料もありませんから、現存する刀からどうやって作られたか推測するしかない。
それをどうやったらこういう風につくれるのか、日々考えながら作り続けています。
目指していたものにやっと近いものを作れた時にも違いがあるし、研究のようなものですね。ちなみに自信作はまだありません。笑
ビクセン弊社の単眼鏡は刀剣鑑賞にもよく使われており人気となっています。藤安さんだったら、単眼鏡を使って、日本刀のどんなところをみてもらいたいですか?
藤安さんやはり地肌の動き。肉眼では見えないけど、単眼鏡を使うと地肌模様のくぼみが立体的に、水が流れているように見えますよね。肉眼で見えない地景に注目してみると面白いですよ。
藤安さんの作品、第一号をみせてもらいました。
単眼鏡で見てみると、地肌がぎゅっと詰まっていることが分かります。リズミカルな波紋と美しい地肌が美しい刀です。
藤安さんこの刀は師匠から教わった技術がそのまま出ている刀です。師匠からは、こんなもので満足するなといわれ、ダメだと思い込んでいました。ですが久しぶりに出してみた時に、あぁここまで出来ていたんだ、師匠そのものだ、と感じました。 同時に、いままでの自分の作り方を壊していかないといけないと強く感じました。
師匠から受け継がれた作風を壊し始めた、短刀を見せていただくことができました。
丁子を基調としたひたつらの波紋がとても珍しい刀です。 単眼鏡でじっくりみてみると、地肌の模様が独特で、板目がしっかりと出ていることが分かります。 力強くにぎやかで、表情が豊かな印象を受けました。
こちらは、福島県田村市の高台に建つ「星の村天文台」の大野裕明 天文台長からの依頼で作刀した、なんと隕石100%の「隕鉄剣」。
藤安さん隕石はニッケルを含んでおり、ニッケルを含んだ鉄はとても厄介なんですよ。隕石は量も少ないし、試作ができない。 でも、こういう無理難題が職人を成長させるんです。笑
ニッケルが入っていることで地肌が独特です。
単眼鏡を使うと、まるで宇宙の様な輝きをみることができました。
水が流れているように見える「地肌の動き」、肉眼では決して分からない刀剣の「地景」。
ビクセンの単眼鏡を使って刀剣をみる際、今回の「刀匠」の視点で鑑賞すれば、より深く刀剣の魅力を知ることができるはずです。