美術鑑賞をより楽しむために欠かせないアイテム。それが単眼鏡です。
単眼鏡で美術作品を鑑賞する最大のメリットは、絵画や工芸の細部に宿る美しさを拡大して堪能できること。 それらの美は、肉眼では決して味わうことが出来ません。今回アートテラー・とに~さんが単眼鏡が広げる美術鑑賞の世界をご案内します。
解説者プロフィール
アートテラー・とに~
1983年生まれ。千葉大学法経学部法学科卒。元吉本興業のお笑い芸人。
芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、 現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営など幅広く活躍中。
アートブログ https://ameblo.jp/artony/
単眼鏡が特にその威力を発揮するのは、日本美術の鑑賞においてです。
作品と一定の距離を置いて鑑賞することで初めて、瑞々しい色彩を感じることができる西洋の印象派の絵画とは違い、 掛け軸や屏風、襖絵、巻物などの日本の絵画作品は、手に取って鑑賞されることを前提にして描かれています。
つまり、展示ケースを挟んで50cm以上の距離が開いてしまっては、 絵師たちの腕の見せ所や絵師たちが伝えたかったことを肉眼で読み取るのは、ほとんど不可能と言っても過言ではありません。
日本画のさまざまな表現技法を見出すことも、単眼鏡観賞の楽しみのひとつといえます。
一つ例を挙げるならば、伊藤若冲の絵画作品でもたびたび用いられている「裏彩色」という技法。半透明の絹地の特性を生かし、表面だけでなく裏面にも彩色をほどこすことで、奥行きのある複雑な色表現を可能にしています。 その繊細で絶妙な色表現は、肉眼だと作品と鼻をくっつけるくらいの距離でなければまず判別できません。しかし、単眼鏡があれば、まるで4Kの映像を見ているかのような鮮明さで、繊細で絶妙な色を堪能することができるのです。
その他にも、仏画の「截金(きりかね)」や琳派の作品に多く使われる「たらし込み」など、日本の絵画には、さまざまな繊細な技法が使われています。
単眼鏡を通して観ることで初めて、日本画の奥深い世界に触れることが可能になってくるのです。
近年海外でも人気が高い根付をはじめとする、漆器や木工、金工、染色など、 日本を代表する工芸作品を鑑賞する際にも、単眼鏡は力を発揮します。
象嵌(ぞうがん)や魚子(ななこ)、濤川惣助の考案した無線七宝のような 細部に宿る職人技を堪能するには、単眼鏡は不可欠です。
さらに、刀剣(日本刀)の鑑賞でも、単眼鏡は役立ちます。
スポットライトのような強い光に当てると、日本刀の刃文が美しく浮かび上がりますが、 実は、刃文は線状ではなく、細かい粒子で構成されているのです。
単眼鏡があれば、「沸(にえ)」や「匂(におい)」と呼ばれる、そのキラキラした粒子を鑑賞することができます。 そのテクスチャーの美しさは、まるで万華鏡を観ているかのよう。思わず惹き込まれていくはずです。
単眼鏡で鑑賞することで実感するのは、いままで以上に美術作品を“ちゃんと”観るようになることです。 漠然と作品を眺めがちな肉眼での鑑賞とは違って、単眼鏡での鑑賞は能動的。 美術作品の細部を、“ちゃんと”観ようという姿勢になります。 そのおかげで、肉眼の鑑賞では発見できなかった作品の魅力に気が付いたことも少なくありません。 そういう時には、ついつい隣の見知らぬ人に、「実はあそこに・・・!」と教えてあげたくなってしまいます(笑) ぜひ、実際に単眼鏡を手に、美術作品の細部に宿る美しさや職人の技に目を向けていただければとおもいます。
美術鑑賞に適している単眼鏡は、4倍か6倍です。
僕が愛用しているのは、6倍。美術館でじっくり美術品を鑑賞する時にも、 旅行先で少し離れた位置に安置された仏像を拝観する時にも、頼りになるのが6倍です。 距離が近い場合も、遠い場合も、この1台が2WAYで活躍してくれます。
ただし、操作のしやすさに関しては、4倍のほうに軍配。 手ブレが少ない分、初めての方にも使いやすいのと、6倍よりも視界が明るく見えるので、 美術館での鑑賞に限って言えば、4倍でも充分に細部に宿る美の世界を堪能することができます。
単眼鏡で美術鑑賞をより楽しむコツ。それは、絵に隠された秘密を探すことです。 なんだか難しいことのように思えますが、単眼鏡があると、意外と簡単。「あれっ、あんなところに人が描かれている!実はキーパーソンなのではないか?」とか、「おっ、あんなところに鳥が描かれている!もしかしたら、何か重大な意味があるのでは?」とか。気分はすっかり名探偵です(あくまで、気分だけ(笑))。
例えば、歌川広重の代表的なシリーズ《東海道五十三次》。
誰もが一度は目にしたことがあろう浮世絵です。その中でも特に有名な日本橋の図。こちらの絵の中を単眼鏡を使って、隅々まで探索してみてください。すると、不思議なことに気が付くはずです。
わからないという人には、ここでヒント。手前に描かれている人物の足元にご注目ください。
そう、よく見ると足の指が6本あるのです。後ろの橋を渡っている人の中にも、6本指の人がいます。実は、他の《東海道五十三次》の絵の中にも、6本指の人はたびたび登場しています。
これは研究者や浮世絵ファンには有名な話で、道教の神仙思想に基づくものであるという説や、海賊版を出版されないためのコピーガード説、はたまたうっかり描いちゃっただけ説など、さまざまな説があるようですが、その真偽は現在も不明。ともあれ、単眼鏡を使うと、こんなディープな美術の秘密の世界を垣間見ることが出来るのです。
続いては単眼鏡を片手に絵の中の世界を探検してみましょう。
今回探検するのは、《洛中洛外図》。
京都の洛中(市街)と洛外(郊外)の街並みや風俗を描いた屏風絵です。戦国時代から江戸時代に制作され、現存する良品は30~40点ほど。その中でも特に有名なのは、狩野永徳が描いたとされる国宝《上杉本洛中洛外図屏風》です。織田信長から上杉謙信へ贈られたと伝えられる逸品で、左隻と右隻を合わせて、実に約2,500人ほどの人物が描かれています。ただし、ごく小さい姿で描かれているので、肉眼では判別不能。まるで、 人がゴミのようです(←?)。
単眼鏡を使えば、立ち話をする人、犬に追いかけられる人、女性に背中を流してもらって鼻の下を伸ばす男性などなど、人々の生き生きとした姿に出会うことが出来ます。
他に洛中洛外には、どんな人が描かれているのでしょうか。是非、自分もその中の一人になった気分で旅してみてください。
日本美術の数ある絵画の形式の中で、特に絵柄が細かいであろうものが曼荼羅(まんだら)。
それも、大日如来の説く真理や悟りの境地をビジュアル化した両界曼荼羅です。
“両界”、つまり、2つの世界。胎蔵曼荼羅と金剛界曼荼羅の2種類があります。どちらの曼荼羅も細かすぎて伝わらないほど、びっしりみっしり仏さまが描かれています。肉眼ですべてを見えるようになるには、確実に修行が必要です。
単眼鏡を持っていれば、修行の必要は一切なし。画面にびっしりみっしり描かれた膨大な数の仏様と出会うことが出来るのです。
実視界11.5度。適度に広い範囲を同時に見渡すことができる倍率であるため、多少の手ブレが起きても観察対象が視野から外れにくく、初心者でも楽に観察できます。
また適度に拡大されるため、肉眼では観察できない美術品の細部までを鑑賞できます。日本製
手ブレが気にならず広い視界(実視界9.3度)を確保できるバランスのよい倍率設定6倍を採用。6倍の倍率があると、美術品を肉眼では観察できない細部までしっかり確認できます。たとえば、日本画の精緻な描写や画家の繊細な筆遣いなど、細部を確認する際に、特に威力を発揮します。より深く美術の世界を追求したい方に最適です。日本製