Vixen の科学情報誌 So-TEN-Ken(ソウテンケン) WEB版

素敵な星夜の神話(ストーリー)
へびつかい座と創造の柱

夜空に絵巻のように展開する星座。
それぞれに奥深いストーリーがあり、現代の私たちの生活にも、その教えが生き続けています。
今回はへびつかい座の神話。
そして星の生命にまつわる話題もご紹介します。

画像:へびつかい座

<へびつかい座>

患者を助けたい気持ちがつのり過ぎて、神の怒りに触れた名医

画像_世界保健機構(WHO)のロゴ

<世界保健機構(WHO)のロゴ>

へびつかい座は名医アスクレーピオスが蛇を持っている姿で、へび座(頭)とへび座(尾)を合わせて1つの絵になっています。
アスクレーピオスは、芸術の神アポローンとその恋人コロニスの間にできた子ですが、カラス(からす座)の嘘が元で、アポローンは誤ってコロニスを殺してしまいます。母親のいないアスクレーピオスは、ケンタウルス族(※2)の賢者ケイローン(いて座)に預けられて育ちます。多くの才能を持つケイローンから医術を学んだアスクレーピオスは名医となり、たくさんの人々を病気の苦しみから救い、やがて亡くなった人を生き返らせることまでできるようになってしまいました。しかしそれは冥土(死者の世界)の神ハーデースを怒らせることとなります。ハーデースは大神ゼウスに訴え、ゼウスによってアスクレーピオスめがけて雷が落とされ、アスクレーピオスは命を落とします。人々の命を救った献身的な息子を殺されたアポローンは嘆き悲しみ、激怒。そんなアポローンをなだめるために、ゼウスはアスクレーピオスを星座にして天に上げました。
ところで、世界保健機構(WHO)をはじめ世界中の医療機関などでロゴマークにあしらわれている、蛇が巻きついた杖は、「アスクレーピオスの杖」と呼ばれています。死んだ蛇にほかの蛇が薬草を飲ませて生き返らせたところを、アスクレーピオスが目撃したことで、死者を蘇らせる方法を身につけた、というお話から、医学・医療の象徴として使われています。

※神話には諸説あります。
※2...上半身が人間、下半身が馬の種族。

暗黒星雲「創造の柱」に星の赤ちゃん!?

画像:創造の柱

<創造の柱>
ハッブル宇宙望遠鏡による撮影画像(左)とJWSTによる撮影画像(右)。肉眼では見えない赤外線・紫外線部分については着色。©NASA,ESA,CSA,STScI,Hubble Heritage Project (STScI, AURA)

へび座には「M16」と呼ばれる散開星団(※3)があり、その後ろに「わし星雲」という散光星雲があります。観察条件の良い暗い空であれば、双眼鏡でもぼやっとした感じがわかります。このわし星雲の真ん中に「創造の柱」と名付けられた暗黒星雲があって、1995年に撮影された画像で話題となりました。画像のように、柱の先にさらに細長い突起のような暗黒星雲が伸びていて、その先端に生まれたばかりの赤ちゃん恒星が隠れています。これを撮影したのは、宇宙で地球軌道を回っている「ハッブル宇宙望遠鏡」。その後打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」によって、2022年に撮影された画像はさらに鮮明なものになっています。JWSTは、可視光で観測したハッブル宇宙望遠鏡と違って赤外線観測を行い、宇宙最初の恒星(ファーストスター)や宇宙初期に形成された銀河、太陽系外惑星などの観測をすることになっています。

※3...数十〜数百個の若い星の集団。