根付とは、もともとはポケットという文化が無かった和装の時代に、印籠や巾着などの提げ物(さげもの)を持ち歩く際に用いられていた実用品です。紐の先端に付けた根付を、帯にくぐらせれば、提げ物は落ちません。言うなれば、ストッパーのような役割を果たしていました。誕生当初の根付は、ただの留め具としての役目しかなく、円いシンプルなものが多かったようですが、次第に帯の上の粋なワンポイントアイテムとしての性格が強まるように。江戸時代の人々は、こぞってお気に入りの根付を身に着け、オシャレを楽しむようになりました。(一昔前に流行った携帯ストラップみたいな感じでしょうか)
現在では、根付はむしろ海外で、日本を代表するアートとして、そしてコレクションアイテムとして、非常に高い人気を誇っています。大英博物館やボストン美術館といった海外の多数の有名美術館でコレクション、展示されているほど。 ちなみに、現在は日本だけでなく世界にも根付の作家が存在しています。日本が生んだ根付は、今や『NETSUKE』として、世界の共通語となっています。
「手のひらの小宇宙」とも呼ばれるほどに根付は小さく、そのサイズは数cmほどしかありません(小さいものでは1cmほど!)。手のひらに乗せて鑑賞することが出来れば申し分ないのですが、美術館ではそうはいきません。そういう意味では、根付は美術館で鑑賞するのに最も不向きな工芸品と言えましょう。小宇宙を隅々まで味わうには、単眼鏡が絶対に欠かせません。
また、根付は置物ではなく、帯に提げられるものであるため、360度どこから見てもいいように彫刻が施されています。いろんな角度から鑑賞するのがポイントです。
立体的なモチーフをかたどったフィギュアのような形彫(かたぼり)根付が一般的ですが、他にも、平べったい饅頭の形をした饅頭根付や、腰に差して使う細長い形の指根付など、根付の種類は実にさまざまです。そして、根付に使われる材質もさまざま。と言っても、実用品であった根付。耐久性が求められるため、黄楊(つげ)や黒檀といった硬い木や、サンゴや象牙やイッカクの角などの硬い素材が多く使われています。
当然、硬いので、簡単には加工できません。根付職人は、ひたすらに地道に彫りの作業を加えることとなります。根付を1つ完成させるのに、およそ1か月かかるとのこと。実はあの根付の小さな世界の中には、細かすぎて伝わらない職人の超絶技巧の数々が施されているのです。是非、単眼鏡でそれをお確かめくださいませ。「神は細部に宿る」という言葉を実感できるはずです。