青森県 奥入瀬(おいらせ)渓流は十和田湖が洪水で決壊した際、八甲田山噴火による火砕流がU字型に侵食されてできた渓谷です。
渓流の流れは穏やかで安定しているため、岩は美しいコケで覆われ、自然が作り出す造形美を楽しむことができます。 この美しい奥入瀬渓流は日本の貴重なコケの森にも選出されています。
奥入瀬渓流は、巨木が多く、コケやシダなどの隠花植物、渓谷林、ブナ林などの植物が豊富です。渓流林の中を通る約14Kmの遊歩道は、原生的な自然を間近で鑑賞することができます。
まさに日本の隠花帝国!今夏は日本の隠花帝国で、小さな芸術世界と出会う「苔さんぽ」を楽しんでみませんか?
奥入瀬渓流は本州の背骨 奥羽山脈から太平洋側に位置しているので、日本海側と太平洋側が混じり合う独特な植生が特徴です。
冬は雪に、夏の間は太平洋側からヤマセという湿った空気が流れ込み山脈にぶつかって滞留するので、水分量が多くコケやシダが豊かに育ちます。
渓流のコケは岩の上で、長い年月をかけて土をつくり、その上に植物が根づき、天然のコケ玉を作っています。では何もないところに何故、土ができるのでしょうか。
コケは根を持たない植物なので、岩の上でも繁殖が可能です。コケが岩の上で繁殖を繰り返し、前の世代の枯れたコケの上に新しいコケを繁殖させます。下の枯れたコケは菌類によって分解されていきます。 何年も何年も繰り返されることで、コケの下に土ができてきます。
まさにこれは隠花植物であるコケと菌類の共同作業なのです。
コケは草木が育つために必要な土を作り、森を作りました。そして、いま成熟した森の中で、空気中の湿度や土壌の水分量を調整する役割を担っています。
スポンジのように雨を受け止め、土砂が流れないように包み込み、草木の種子の発芽を促すベッドになります。小さな生き物たちに住む場所と多くの鳥たちに巣の材料を提供しています。
このようにコケは森の長期的な発達を支える、なくてはならない存在となっています。
奥入瀬渓流に流れ込む多くの滝は、山が降る雪や雨をゆっくりと濾しているので、水量が安定しています。
この安定した水の流れがコケや草木が育つ環境を作っているのです。その証拠に川岸ぎりぎりまで草木が繁茂し、渓流の流れの中にある岩には根を持たない植物、コケが繁殖しています。
このように気候、水の流れ、隠花植物、菌類などの絶妙なバランスが奥入瀬渓流の美しさそのものを形成しているのです。
大きな岩を抱きこむように生えている木の根を観察すると、樹幹着生型のコケ、アノモドンが見つかりました。恐竜の名前のようですが、これは学名でオオバギボウシゴケモドキというコケです。
ハリと弾力のある、少し硬めのしっかりとした手触り。
奥入瀬渓流の全域でみられ、大型の樹木にマット状の群落を作っています。
そして、すぐ近くにはトヤマシノブゴケ。
シダ植物のシノブに姿が似ているコケです。細かい枝分かれした様子がシノブを思わせるコケで、柔らかく繊細です。
空気をたくさん含んでいて、ふわっとした柔らかい手触りです。
エゾチョウチンゴケは透明感のある明るいグリーンのきれいなコケです。
ルーペでじっくり観察してみると、トゲトゲのアンテナが立っているのが分かります。このトゲトゲはとても折れやすく、折れたものが落ちて繁殖します。 チョウチンゴケの仲間は胞子体が提灯の様なカタチをしていて、とても愛らしい姿になります。
透けるように薄い葉のコケシノブ。
非常に美しい姿で、清涼感があります。コケと一緒に散生しています。一見、コケのように見えますが、実はシダ類です。
環境の整ったところにしか生息しないシダなので、実際にみつけたらじっくり観察してみましょう。 シダには根があるので、抜かないよう生えた状態のまま観察しましょう。
群生しているコケの中には、何種類も違う種類のコケもが生えています。 一つの岩をじっくり観察するとコツボゴケとエビゴケの群生を発見しました。
こちらはコツボゴケ。花のような形の雄株の群生です。同じコツボゴケでも雌の株は形が違います。コツボゴケはチョウチンゴケ科のコケで、提灯に似た形の可愛らしい胞子体がつきます。
岩の下のハング気味の面にはエビゴケがびっしり。動物の毛並みのようにキレイに生えています。
とても細い葉は、ルーペで見ると驚くほど精密なつくりをしています。 エビゴケはその名前の通り、エビによくにています。細い触覚のような中肋が特徴的な美しいコケです。
大きな一つの岩の上でもそれぞれのコケが得意とする環境で住み分けて共生している、わかりやすい例を観察することができました。
森で濾された水が滲み出る岩の壁で透けるようなみずみずしい葉のオオバチョウチンゴケを見つけました。
葉が大きめで、向こう側が透けるくらい透明感のあるきれいなコケです。 湿った葉を光に透かして観察してみると、つぶつぶとした細胞がはっきり見えます。 渓流沿いや滝の飛沫のかかるところに多く見られるコケなので、奥入瀬渓流ではいたるところで観察することができます。
岩壁にベタッと貼り付いた様に群生するジャゴケは苔類(たいるい)の代表的なコケで、 表面をルーペで観察してみると蛇の鱗のような模様が見られます。
模様の真ん中には気室孔があり、指でこすると香りがします。人によって感じ方は様々ですが、爽やかな シダーやサイプレスのような香りがしました。
拡大すると少し不気味なコケですが、若いジャゴケは可愛らしいハート型をしています。
流れの穏やかな渓流では、季節の虫の鳴き声や鳥のさえずりなども楽しめるので、ゆっくり散策されることをおすすめします。
また、勾配を殆ど感じない遊歩道なので、下流から上流に向かって散策してください。そうすることで、奥入瀬渓流独特の水の流れの景観を楽しめます。
コケを観察し始めると、狭い範囲に色々な種類のコケを見つけることができます。
小さな世界をじっくり観察することで、その周りに生息している花や小さな虫などにも気づくことができます。
コケのデザインはそれぞれ個性があります。色、かたち、手ざわり。
自然の作った小さな芸術品のすばらしさは、ルーペ越しにみると、息を呑むほど。 ルーペを使ってじっくり隠花帝国のアートを楽しんでください。
約1000年前、十和田火山が噴火して奥入瀬の周囲は全て焼き尽くされました。
なにもなくなった死の世界から、森づくりを最初に手掛けたのは、地衣類やコケなどのとても小さな隠花植物(種子を持たない植物)たちだったのです。森が作られたストーリーを知ると、隠花植物の重要性に気づかされます。
短い時間で移動して、多くのものを見ようとするのではなく、足を止め、小さな世界へルーペを近づけてみてください。
見過ごしがちな小さなものたちが視界に入ってきます。短い距離を出来る限りゆっくりと…。 このコケ目線をマスターすると、小さな宇宙が見えてくるのです。
奥入瀬渓流の「貴重なコケの森」を満喫するなら、渓流沿いに佇む唯一のリゾートホテル「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」での滞在がおすすめです。 八戸駅・新青森駅・青森空港から無料の送迎バスもあり、アクセスも抜群です。
木漏れ日の中、野鳥のさえずりを聞きながら楽しむ朝食前の渓流モーニングカフェは大人気のアクティビティ。
軽く渓流を散歩してからいただくコーヒーは格別です。
また、渓流沿いで楽しめる朝食やランチプレートもすがすがしい空気のスパイスがなんとも贅沢な気分にさせてくれます。
フォトジェニックな遊び心たっぷりのお料理は、見て楽しい、食べて美味しいご馳走です。
コケをモチーフにした奥入瀬渓流ホテルのお菓子や食事は完成度がとても高くて、お友達との会話も弾みます。苔さんぽで出会ったコケの風景を思い起こしながらいただきましょう。
中でも、苔玉アイスは食べてしまうのが勿体無いくらい可愛らしいデザートです。
神秘的なコケのミクロ世界と出逢う奥入瀬渓流ホテルの「苔さんぽ」や奥入瀬自然観光資源研究会の「おいけんネイチャーツアー」などのアクティビティで奥入瀬の自然を満喫できます。
コケを知り尽くしたガイドさんからコケの不思議な生態や特徴を学びながらおさんぽしてみましょう。
また奥入瀬渓流ホテルでは、大雨の日ならではの森の魅力をネイチャーガイドがご案内する「雨さんぽ」という雨の日限定のプログラムもあるので、お天気を気にせず楽しめます。雨の日だけに体験できる苔アクセサリー作りも人気です。
ホテル内で毎日夜2回開催される「森の学校」では日本有数の景勝地 奥入瀬渓流の成り立ちやそこに生きる植物の不思議を学んだり、プロのネイチャーフォトグラファーの撮る壮大な奥入瀬自然の写真を鑑賞したり、大人の知的好奇心をくすぐるプログラムが充実しています。
内容も日替わりなので、滞在中は毎晩勉強したくなってしまいます。
苔さんぽの後は、ちいさな奥入瀬を自分で作ってみませんか?
モスボール工房では、奥入瀬の自然の中で見られる草木の赤ちゃん苗を苔玉にして、持ち帰ることができます。
作り方は親切丁寧にモスボール工房のこけ丸め職人のお兄さんが教えてくれます。 愛情を込めて作った奥入瀬渓流の思い出は大切な宝物になるでしょう。
モスボール工房では、ひょうたんランプの制作体験もできます。もちろんランプのモチーフとなるのも 奥入瀬に生きるコケたちです。
奥入瀬渓流での滞在でコケを満喫したい方は、苔ガールステイの苔ルームに滞在してみてはいかがでしょうか?
お部屋に入ると、苔と胞子体をイメージしたモチーフがついたルームシューズがお出迎え。お部屋の中に入ると、ベッドもソファーもクッションもコケを思わせるテキスタイルやふわふわの感触を楽しめるものでまとめられています。 また、お部屋には観察用のルーペやコケの書籍もあるので、ぜひ、活用したいですね。
苔ガールステイのオプション苔パーティセットは苔をイメージしたオードブルやカクテル、デザートを楽しめる軽食セットです。
トマトなど丸い食材を用いた「タマゴケピンチョス」はタマゴケの愛らしい胞子体をイメージしたオードブル。抹茶リキュールをベースにした「苔カクテル」はとても飲みやすい爽やかなカクテルです。「苔ムース」はホワイトチョコのムースに抹茶スポンジのクラッシュをトッピングしたデザート。 ルーペで覗くと繊細で美しい一面を持つ苔たちの世界観を、お部屋でも楽しみましょう。
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル
十和田八幡平国立公園に属し、特別名勝かつ天然記念物に指定される奥入瀬渓流。 清らかな流れと深い森が四季折々の景観美をあやなし、人々を魅了してやまない日本屈指の景勝地です。
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルは土地の食材を使った美味しい食事や自然を満喫できるアクティビティ、 澄んだ空気、小鳥のさえずり、心地よい瀬音などゆっくり楽しみながら滞在できるホテルです。
NPO法人 奥入瀬自然観光資源研究会(おいけん)
奥入瀬・十和田湖エリア全体をひとつの有機的な野外博物館と見立て、その魅力と価値を体感しつつ学んでいく滞在型の観光スタイルを提唱する研究会。環境省と日本エコツーリズム協会の共催する2016年「エコツーリズム大賞」特別賞を受賞。
奥入瀬の価値と魅力を学びながら、じっくり自然と向き合う究極のスローツアーや奥入瀬とコケの魅力を両方楽しめる、 お散歩感覚で参加できるライトなツアーなど魅力あふれるガイドツアーを開催中。
写真は本取材で苔さんぽのガイドをしていただいたネイチャーガイド・ライター、フォトグラファーとしてご活躍中の河井理事長。
奥入瀬モスボール工房
奥入瀬渓流ホテルから歩いて5分ほどの奥入瀬渓流館にて、モスボール(コケ玉)の展示販売・制作体験ができる 奥入瀬モスボール工房。「コケ玉」と「ひょうたんランプ」の専門店です。
奥入瀬に生育している苔・シダ・樹木をモチーフに、苔むした岩を「こけ玉」に見立て、「小さな奥入瀬」を 表現しています。